おばちゃんパワー

今日はパスポートの更新のために必要な証明写真を撮りに近所の小さな写真屋さんに行った。すると超すごい老眼鏡をかけたじいさんがヨボヨボと出てきて、今日はやってないから駅前にある本店に行ってくれとのこと。教えてもらった場所に行ってみると本店っていうかなんていうか、小さくて古いカメラ屋さんで、ついでに写真も撮れますよみたいなかんじ。ごめんくださーいと入るとおばちゃんが
「証明写真よね?あっちのお店から電話で聞いたわー。ちょっと待ってねーカメラがないわ。どこいったのかしら。カメラカメラカメラ・・・お父さんカメラどこだらー?」
写真屋さんでカメラがないという展開に私はかなりウケてしまったが、おばちゃんは若干テンパリつつちょこちょこ動き回り、新聞の下やら引き出しやらいろいろ見て回るがない。入り口の横で小さな折りたたみイスに腰掛けているお父さんと思われるおじさんは、近所の友達みたいなおっちゃんと話しこんでいる。するとその友達みたいなおっちゃんが禁煙パイポをくわえながら
「おめぇ、ここにあるじゃぁー!」
と指差した先は三脚の上。やだー三脚についてるじゃなーいあはははははと爆笑、私も爆笑。って、え?これで撮るの?そのカメラは何年前の型だろう?というかんじのごく普通のデジカメ。ほら、昔のでかいやつ。
まぁいっかなんでも、とスクリーンの前に座り写真を撮ろうとしたが、スクリーンは入り口のすぐ前にあり、かつ入り口はガラス張りなので日差しがすごくて、ガラスに貼ってある文字の影が私の顔に写ってしまうような状態。
「こりゃちょっとまずいわな、ちょっと待ってろやれ」
と、お父さんは着ていたジャンバーを脱ぎ、私の横に立ってそのジャンバーを広げて日差しをブロック。
「はいじゃー撮るでね!ちょっとお父さんどいて!はーいいきまーす!」
おばちゃんは三脚を禁煙パイポのおっちゃんの真ん前まで引き、それでも引きが必要だったらしくかなり反り返り(店内がかなり狭いのだ)それって三脚の意味なくね?な状態でやっとシャッターを押したが、同時になぜかレンズのカバーが閉じてしまった。あれ?今のでいいのか?と思っていると今度は
「やだーバッテリーがありませんだって!あはははは」
あははははは。ここまで来るとコントだ。そしておばちゃんはレジの横に商品として置いてあった乾電池を開けカメラにセット。そしてやっと撮れた。
30分ほどかかるというので隣のコンビニで立ち読みしてから戻ると、おばちゃんが真剣なまなざしでパソコンと格闘中。白い背景でお願いしたが、どうやらグレーのスクリーンの背景をフォトショップ系の画像処理ソフトで白くしてるらしい。なーんだおばちゃん、なかなかやるじゃん。
待つことさらに30分。
「あなたの髪の毛ちょっとむずかしいわ。このスキマはグレーのままでいいかしらね。いいら?」
私の髪は今軽くドレッドなので束と束のスキマができてしまうのだ。あー全然いいっすよーと言う間もなく出力された写真を見ると、あれ?あれあれ?笑 どうやらおばちゃん悪戦苦闘の末、ぼかしの強いブラシツールみたいなやつで背景の部分を塗りつぶしたらしく、髪の毛と背景のさかいめが白くぼやけている。なに私、天使? そして私の表情。あのコントのなか撮った写真だけに、笑いをこらえたようなスマイル。これはこれで面白いかもしれない。
2,000円払ってお礼を行って店を出て、店の前にとめてあった自転車のかぎをはずしていると、おばちゃんがちょっとあなた!と叫びながら店から飛び出してきた。
「あのね、私、顔を白くしたのも出したのよ!こっちの方がいいんじゃないかしら!びはく!あははは!」
そう言うと私に白く写った写真をいっぱいくれた。やーんおばちゃんありがとう。こんなにいらないけど。でもうれしいぜ!
そしてパスポートセンターみたいなところに行き、必要書類とそのびはく写真を提出すると・・・どうやらあの白いぼかしが、偽造パスポートと疑われる可能性があるとのことで、ききき却下・・・。写真屋さんで撮ったのに!いやーん。
いやでもなんか、おばちゃんおじちゃんとあとおっちゃんと、あの楽しいひとときを過ごした後なわけで、しかもサービスでびはく写真までくれた後なわけで、どうもクレームが言いづらい。2,000円はムダになってしまったが、すごく楽しかったし、まぁあれはあれでいっか!と思い、別の写真屋さんに行った。するともう10分もしない間にできあがり。しかし私のスマイルはちょっとぎこちない。
その後無事更新手続きは済んだが、手元に残った合計11枚の写真たち。どうしようこれ。缶バッジでも作るか。
生活するなら都会がいいな派の私だが、地元にいるとたまに田舎もいいなぁと思うときはこんなときだ。たまにだけど。